MENU
アーカイブ

ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」をたたえる (大野和士指揮東京都交響楽団 新国立劇場)

指揮:大野和士
演出:デイヴィッド・マクヴィカー
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京都交響楽団

トリスタン:ゾルターン・ニャリ
マルケ王:ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
イゾルデ:リエネ・キンチャ
クルヴェナール:エギルス・シリンス
メロート:秋谷直之
ブランゲーネ:藤村実穂子

牧童:青地英幸
舵取り:駒田敏章
若い船乗りの声:村上公太

まず初めに、重大な歴史的事実を伝えます。

『1906年5月8日ウィーン国立歌劇場におけるグスタフ・マーラー指揮アルフレート・ロラー演出の「トリスタンとイゾルデ」の客席には17歳のアドルフ・ヒトラー青年がいました。』

2024年3月20日,23日,29日は新国立劇場で大野和士指揮東京都交響楽団のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」を観ました。

大野さんのワーグナーは、2021年のマイスタージンガーが肥大した超ノロノロ演奏であり、非常に警戒していたのですが…

圧倒的な音楽世界を前に言葉を失いました。

大野さんは全幕暗譜で振っていました。

2022年7月のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」にも通じる詩情を湛えた端正な指揮は見事なもので、大編成でピット(新国のピットは床が可動式で、今回はバイロイトを意識して深く設定されていたようです)に収まる都響もよく応えていました。心象風景に重きを置いたシンプルな演出も、殺伐とした物語によく合っており、秀逸なものでした。

主役2人(ケールとウェストブルック)が降板するという異常事態にも関わらず、キャストも健闘していました。

イゾルデのキンチャは始終力押し気味、ほぼ絶叫で聴き取れない箇所もありましたが、強い意志を持ったキャラクターとして見事に演じ切っていました。

トリスタンのニャリは俳優出身ということもあり、演技では抜きん出ていたでしょう。

クルヴェナールのシリンス、ブランゲーネの藤村実穂子はいずれも超大物としての矜持を感じさせる確固たる歌唱でした。

藤村さんは本当にすごかったです。私はこれまでワルキューレ(フリッカ)、グレの歌(山鳩)、大地の歌、マーラー2などで聴いていますが、本当に見事なもので、間違いなく世界最高のメゾソプラノです。

物語のキーパーソンはブランゲーネでしょう。毒薬を媚薬にすり替えた張本人であり、生き残ってトリスタンとイゾルデの悲劇を後世に語り継ぎました。

トリスタンとタンホイザーは、マイスタージンガーの中で昔話として登場します(第3幕、命名式の五重唱の前で一瞬だけトリスタンの前奏曲が顔を出します)。傷を負い、死による救済を渇望するトリスタンはパルジファルのアンフォルタスに重ねられます。トリスタンとイゾルデが讃える愛の女神はタンホイザーのヴィーナスそのものであり、ローエングリンでオルトルートが讃える古代の神々は、指環の登場人物たち。タンホイザーのニンフは、パルジファルの花の乙女、パルジファルが射落とすのはローエングリンを乗せてきた白鳥、そしてパルジファルはローエングリンの父親にあたるのです。全作品で緩やかにモチーフが繋がっていることを考えると、鳥肌が立ちます。

マイスタージンガーやパルジファルなどと異なり、冗長さを一瞬も感じることがありませんでした。トリスタンとイゾルデは、間違いなくワーグナー作品の最高峰と言えましょう。

ごうた

妻の記事です。よろしければご覧ください。

コメント

コメントする

目次