2026年4月18日に、新国立劇場にて観劇してきました。
ベルクにはあまり馴染みがありませんでしたが、夫のおすすめで触れてみることにしました。
思い返すと、2019年ジョナサン・ノット指揮のマーラー7番で一緒になっていた「管弦楽のための3つの商品op.6」を聴いたことがあるくらいですね。「ドンガラがっしゃんで面白かった」という印象です。
リヒャルト・シュトラウスやワーグナーのオペラばかり見てきたので、今回の体験もとても新鮮でしたし、現代を生きる私たちに近いものを感じて、有意義な時間を過ごせました。

曲について
聴いてて疲れた笑
上演時間な長いことでも有名な「トリスタンとイゾルデ」と比較しても、「ルル」は時間の流れが遅く感じられました。思うに、同じ1秒であっても、ベルクは詰め込む音の数が多いため、より時間が濃くなっているのかもしれません。初めの方は一つ一つの音を追っていたんですが、途中からもう頭がついていかず。音に身を委ねてみると、それもまた濁流というか・・・笑 海風にあたって疲れたみたいな、普段触れないエネルギーにさらされた感覚があって面白かったです。
和音の作り方すごい
衝撃音は衝撃音なのですが、その中にきちんと響きがありました。東京フィルの技術力が随所に光ります。鍵盤をダーン!と叩きつけてできたような和音であっても、ホルンやトロンボーンがピタッとはめていたり(その和音の作り方のセンスがすごい)、5連符とも7連符ともとれないようなメロディをクラリネットの1srと2ndがビタっと揃えていたり。
ただの混沌ではなく、その中にメロディがある。音楽が流れている。浅学ですが、このバランス感覚がベルクの特徴の一つなのかな、と感じました。
ルルの使用楽器にて、オケでの登場はそう多くない楽器として、ビブラフォンがあります。いわゆる鉄琴で、小さくない方(グロッケンではない)のやつです。鍵盤の下にある筒状の共鳴管の中にプロペラみたいなものが入っていて、スイッチを押すと電力で回転し、あのワウワウという余韻を残します。この余韻が曲の中でよく出てきましたね。楽しい。ビブラフォンとハープと鍵盤は、情景描写の役割が多くて、ここぞという衝撃展開の時に、魔法をかけるように曲を豊かにしていました。ウィンドチャイムなしで作っちゃうところも素敵。トランペットのじゃりっと感のあるミュートも良かったです。
4階席だったので、オーケストラピットをはっきり見れていないのですが、サックスいたのかな?弦も管も発音をざりっとさせていて、中でもサックス?とファゴットのソロが印象的でした。確かにリード独特の発音を曲に取り込むとなった時、リードサイズの大きいファゴットや、シングルリード楽器の中では発音しやすいサックスを目立たせるというのは、曲の雰囲気にあっているように思いました。
ざりっととか、じゃりっととか、そういう音の作り方の何がいいって、美しさだけじゃない俗っぽさみたいなものが感じられて私は好きです。登場人物一人一人のエゴが感じ取りやすいというか。例えるなら、まさに今回の演出であったコンテンポラリーダンス(ルルの内面を表現していたダンス)とバレエの違いみたいな。曲の途中でがなってみる感じとか。現代に近い、少し親近感がある、自分ごとに感じられるというのは美しく昇華されすぎていないところもあるのかもしれません。
これ、と言ったフレーズがない
濁流に身を委ねると先述しましたが、たとえば「ルルのメロディー歌って?」と言われたら、私はドアベル(あれもいい音作りでしたよね)くらいしかできません笑。何がモチーフなのかも掴みづらくて、感情の起伏、内面の複雑さというものが整理されずにそのまま出ているような、熱量が感じられる曲でした。マーラーを尊敬していたベルクですが、マーラーよりも荒削りな感じ、実際精緻に設計されてはいると思うのだけれど、成果として荒削りな若々しい勢いのようなものが感じられました。
マーラーと似ていると思ったのは、一部大地の歌みたいなところがあったかなあというところと、感情の起伏のような揺れ動きが多いところです。でも似ているという風には思わなくて、マーラーには落ち込みや静けさ、虚無、みたいなところがあり、それと反対にものすごく美しい世界が広がるというところがありますが、ベルクは憤怒、焦り、恥といった、負のエネルギーにしても熱を感じる場面が多いように思いました。絶叫も多いですしね。
配役について

ルル役まさにぴったり
終始安定した方で、とってもお上手でした。ソプラノが叫ぶように歌うとなるとキンキンしそうですが、そんなこともなく聴きやすかったです。声色も、髪型のピンクボブスタイルが似合うキューティなお声で、まさにぴったりでした。どうやって歌うの?譜面どうなっているの?みたいな独唱も多く、天才か?と思いました。あれを指揮する人も演奏する人も、いや本当にすごい。オペラというよりも普通に劇を見ているような感じで、歌があるというよりも劇のセリフを元にその場で音楽している感じ。アドリブっぽいけれど、アドリブじゃない。
それから今回のオペラ歌手が、全員日本人であることにもびっくりしました。ドイツ語の発音がよくて、てっきりヨーロッパ出身の人かと。この人調子悪そうかも?という人が誰もおらず、物語にのめり込むことができました。
演出について
綾波レイみたい
ゲンドウがユイを求めるのと似ているように思いました。ユイの模倣としてのレイ。それぞれルルのマネキンを愛撫しているシーンとか、手や足がバラバラ落ちてくるシーンとかそれっぽいような。ルルのことをエヴァという愛称で呼ぶ人物も登場しますし。またニーアオートマタの9Sの2B大量発生&殺戮シーンにも似ているように思いました。あれも愛憎劇ですよね。生生しさでいうとルルの方が上に感じました。
魔性の女の苦労が前面に出ている
演出家がフェミニストというのに納得です。演出が変われば翻弄される男の話と受け取れるように思います。コロコロ場面転換するし、プロジェクションマッピングもするし、影を使ったり手法が盛りだくさんで、みていて面白かったです。
物語について
今昔続く題材
メンヘラ、執着、激重、悲劇。
幼馴染(好きな人の息子)、歳の差、同性愛。
シチュエーションが豊富で、生存ifなど二次創作が捗りそうです。濃度は異なりますが、題材(愛憎など)としては、現代でも私の好きなニーアオートマタなどのゲームストーリーでもみることができます。
だからこそ、私はルルの物語を身近なもの(受け取りやすいもの)と感じられました。作品が作られたのも、物語の内容も現代に近いことで咀嚼しやすく、題材を回収しやすかったように思います。
ルルに描かれた題材は、その少し前の時代の作品にも、また少し異なる形で描かれていることでしょう。
遡っていけば、同じように、形は変えど一貫した題材というものがあって、でもそれの咀嚼しやすさは作られた時代や個人の知見、体験の差によって異なるのかもしれないと思いました。私も辿っていけば、いずれバロック音楽に感銘を受けられる日が来るのかもしれません(今は心地よい音楽という印象が強い)。
ルル自身のキャラクターというのは、あまり感じなかった
魅了された人の思いで形成されているルルを観劇している感じがありました。ルルが発する言葉で彼女の意思が強く感じられることはあまりなくて、鏡の中のルルを見ているような距離感がありました。また、物語は見せ物ショーとしてスタートするので、メタ的視点で実際にショーを観劇している客としてオペラに参加している感じもあり、それも没入感を促す機構でしょうね。
備考
今回の演出に合わせたルルコーデとして、赤タイツ履けばよかった。ピンクボブは無理だけど、これならできたなあ。

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