10月26日は東京文化会館で二期会公演のペレス指揮コンヴィチュニー演出リヒャルト・シュトラウス「影のない女」を観ました。
コロナ禍で2022年から延期となったものです。当時、4公演全て席を取り楽しみにしていたものが、急に「フィガロの結婚」に替わり、落胆したのを覚えています。
本作は巨大編成かつ複雑な音楽による喪失と和解の物語です。第一次大戦と、ハプスブルク家追放、オーストリア・ハンガリー二重帝国崩壊というカタストロフィックなイベントを経て1919年に初演され、以降も空襲で焼失したウィーン、バイエルン両国立歌劇場の再建記念、METや名古屋芸術劇場(市川猿之助演出!)柿落としなど節目に上演されました。
ばらの騎士、ヴォツェック、ルル、死の都と同じく、20世紀オペラの最高峰を構成する大作であり、愛好家として上演の機会を大変楽しみにしていました。
しかしながら
今回私が観たのはもはや「影のない女」の原型を留めていないため、たたえるも何も、レビューのしようがありません。下記の通りまとめられるでしょう。
・作品を敵視する演出家によって無惨に切り刻まれ、ほぼ全ての聴きどころをカットされて並び替えられた末に、全く原型を留めなくなったシュトラウスの音楽の残骸
・1時間近いカットには一切触れず販売した二期会
・空席だらけの1階席と、ブラボーとブーイングが飛び交う天井桟敷
・極めてレベルの高いペレス指揮東響と歌唱
・ボン歌劇場制作陣による見事な舞台セットと照明
第3幕がほぼ無くなったのは論外ですが、さらに悲しいのは、私の大好きな、皇后と乳母が人間界に降りていく、第一幕の劇的な場面転換が無くなったことです。
コンヴィチュニー抜粋版とも言える、主要シーンを中心に1時間近くカットされた不完全な作品を、何のアナウンスもなく販売し続けた二期会の運営方針にも疑問を呈せざるを得ません。とはいえ、全く新しい舞台作品としてみれば、それなりにまとまっていたのではとの指摘にもやや賛同できます。
この演出に限った話ではありませんが、極端な性描写や暴力シーンで前衛さを訴える手法自体が、賞味期限切れの感があります。
端正なペレスの指揮は本当に見事なもので、大編成でピットに入る東響も極めてレベルの高い演奏でした。そして何より、皇后の冨平(2022年のルルもすごかった)とバラクの妻の板波、バラクの大沼はいずれも秀演でした。音響面では極めて完成度の高い、本作品の二期会初演に相応しいものだったと言えましょう。
何より嬉しかったのは、二期会が2026年4月にカロリーネ・グルーバー演出ベルク「ルル」の再演を敢行するというニュースです。2021年8月に初演を観ましたが、リブレット通りの「場面転換でのサイレント映画上演」もあり本当に見事なものでした。
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