私の初めて鑑賞したオペラは、ラ・ボエームです。
当時21歳。
東京文化会館のZ席から、首を痛くしながら見たラ・ボエームは、急に恋愛するわ、具合悪そうな咳は止まらないわ(歌手の方喉の負担大丈夫かしら)、陰湿であまり楽しめませんでした(夫の推薦でしぶしぶ行ったということあります)。
そんなイマイチなイメージの残るラ・ボエームを、井上道義さんは一番好きなオペラとおっしゃいます。
それも自身の引退公演で使うほどに。
えー
YouTubeに上がっていた彼の会見で、「虚偽ばかりの世界だから、最後にいちばんの嘘をついてやろう」という話を聞いて、なるほどたしかにラ・ボエームほど嘘っぽい話は無さそうだ、と不思議と納得したり。
井上氏は80才で、本公演をもって引退されるそうです(こだわりの終わり方らしい)。しかし私にとってはこれが初めまして。
彼は伊福部を踊るように指揮する、ということは知っていましたが、ほぼ知らないうちに最終回を迎えた気持ちです。
素敵な哲学のある指揮者の、最後の音楽に興味を持ち、1人鑑賞(偶然にも1人鑑賞は前回のラ・ボエーム以来)に出かけました。
以下、初心者の気ままなおしゃべりです。
ロームシアター京都
”ロームシアター”ってなんぞや。
しかも建物がいくつか群をなしていて、「テラスほにゃほにゃ・・・」とか、ぱっと覚えにくい名前がたくさん。
初心者には数字とかにしてほしいところではありますが、近くの神社含め丁寧に街づくりした所以でしょう。
とりあえず一番大きそうな名前のところだろうと、「メインシアター」を目指したら無事に辿り着けました(2階が入り口)。
さて、13:15に会場到着&確認完了。
14:00に開演だから、開演までは45分弱か。
うーん…レストランに入るには微妙な時間だし、時間を守ってくれるであろう併設レストランは、ランチでも3000円と来た。
コンビニしかないな〜と最寄りのコンビニを覗くと、炭水化物は全て売り切れ!!
ああ完全に昼食難民です。
私、お腹が空くと怒り出すタイプです。今日の3時間の公演を楽しむべく、お昼抜きは絶対嫌!
と必死の勘を頼りに周辺を歩くと、なんとキッチンカーいるじゃない!神よ。
お腹を満たし、コンビニで飲み物を買うにも品数が怪しかったので、自販機でもあれば〜とうろつくと、すごい外観の京都府立図書館が。
ロームシアター京都の近くには美術館などの大きな建物から、お寺様式や煉瓦造りの建物など、なんだかどれも立派な雰囲気です。すてき図書館に設置された自販機でお水を買い、ちゃっかりお手洗いも済ませて混雑を回避。
・・・今度ロームシアターに行く時は・・・
近くにカフェや自営業のレストランがちらほらあったので、そちらでゆっくりいただきたいものです。
また近くの人の話を盗み聞いておりましたら、バスできたらとても時間がかかった〜(1時間かかったとのことだがいったいどこからなのかは不明)とのことで、地下鉄東西線の東山駅から15分弱歩くのが一番安全かも。
ロームシアター京都 内部
開場過ぎてもホワイエが混む。
混雑嫌党代表として時間をずらしたつもりでしたが、入場ゲートが収容人数の割に狭いのかもしれません。
ちなみに設計者は東京文化会館同じ前川國男。日本の現代建築で有名な、建築士試験に出るような方で、木版で型押しされたコンクリートとか、外観とか、東京文化会館をご存知の方は似たものを感じられると思います(実は先に気づいたのは建築に関係ない夫の方。写真しか見ていないのにすごい)。
今回は最上階4階の3000円席。
座ってみて驚いたのですが、ここってステージのど真ん中に手すり棒入り込むんですね…
最後尾で前のめりになるのが1番快適かも…
と思っていたら私の後ろが最後列でして、5席も並んで空いていたものですから、しめしめと一幕はそちらに移動。
超快適。棒がじゃまなら動けば良いじゃない。
しかし残念なことに、二幕の初めに「こちら遅刻された方用でして…」と声をかけられました。
いちばん好き勝手できる良い席が遅刻席だなんて…!しぶしぶ窮屈で棒で遮られる席に戻ったら、三幕前で私と同じように注意された方がいました。ですよねですよね、お気持ちよくわかります。
ラ・ボエーム お話自体について(ネタバレあり)
この話、急に男のノリ入ってきますよね。なんなのでしょう。あれを入れることによりミミの死が近づいてくる暗さが弱まるとお思いで?(実際聴衆の気持ちの休憩になってはいるが、弄ばれてる感)
こういうラ・ボエーム特有の、舞台と聴衆とで明確な線が感じられるところを、井上氏は‘嘘’と表しているのでしょうか。
他にもこの物語の(愛すべき)嘘っぽい(物語っぽい)ところを並べてみます。
・電撃的な運命の恋が始まる
・暗闇で初対面の男に急に手を握られても、ひかないミミの胆力
・女性側が不治の病
・なんで私ミミなのかしら〜(知らないわ笑。ここぞというところでアピールするということは韻でも踏んでいるのかしら)
・2つのカップルが同時に春に別れる約束をする
・貧乏グループに出世頭がいる
・好きすぎて苦しい(ロマンスの王道)
・ミミいつのまにか豪華な服を着ている
・知らん間に女性陣いきなり仲良くなってる(男性から見たら、これはリアルなのかも…?)
個人的にトスカの方が好きで、やっぱり一番好きなオペラにはなりませんでしたね。面白かったけども。
ラ・ボエーム 演奏について
4階ということもあり、オーケストラがしっかり聞こえました。オペラではオケが控えてバランスをとりがちですが、オケが前に出るところが多く(主役テノール不調?絵描きの方が良い声でした)今回は井上氏の迫真が、物理的に近いところから伝播したのだろうか、なんて思っていました。
アマオケの仲間から「京響は良いぞ」と聞いており、その噂は確かでした。
井上氏の解釈もあるのでしょうが、音が明るくて、前回観たラ・ボエームで感じた重苦しさがそこまで強くありませんでした。哀愁、名残惜しさ、ここぞというところはしっかり鳴らしますが、全体として美しく、潔い感じ。私の好みです。
たまにすんごく良い響きが急に来て、泣けました。
オーボエの入りのブレを聴いて、なんだか安心(わかる…!!!)。特に高音の音色素敵でした〜!
あ、あと子供たち!猫でしたね!かんわゆいし、健気で無駄に泣けました。こういう「みんなで楽しい!」みたいな爆発にめちゃくちゃ弱いです。ミミの死よりここで一番泣きました(ミミの死はやっぱり急すぎて、感涙には至らず。物語上必要な死として置かれた事務感がある)。
演出について
なかなか尖った雰囲気の演出家さん。どんな感じかなぁとワクワクしてみた舞台セット。大きなセットが全幕共通でありながら、ライトや小道具でガラッと印象が変わる面白いデザインでした。
特にライトが印象的でしたね。男3人こそこそ話すシーンで、徐々に彼らの影を増やすのはこそこそ感が助長されて素敵でした。
あと床に絵描きの絵の具が飛び散って汚らしい感じを見せつつ、ブラックライトで白く星々のように輝くのもよかった…!
ミミのベッド、木箱で痛そう…って思ったのは私だけでしょうか。メンズたちが「布をかければ、あらふしぎ〜」みたいな感じで、即席ベッドにしたのは面白かったです笑
それから、黒子さんがバレエの方でしたね。冒頭の暖炉の火の様子とかは、現代版まっくろくろすけ?と思ったりしました。大窓から光が差し込む様子。最後のエジプトの遺跡みたいなポーズ。表現しつつ、しっかり黒子の役もしつつ、という新しいものを見ました。
あとピエロにもびっくりしましたね。あれは尺稼ぎ?
井上さんの‘嘘’と‘道化’をかけてたりして…。考察厨すぎるかな。
そんなこんなで、あまり好きじゃなかったラ・ボエームが少し好きになった、気分の良い公演でした!
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