マーラー9がいかに偉大な作品であるか、説明しきれません。
月面のように荒涼とした第1楽章はこの作品の白眉でしょう。弾きそこないのようなチェロの断章で始まる冒頭部分、これに続くカタストロフィックな音楽世界において、マーラーは現代音楽の扉に間違いなく手をかけているのです。
マーラー9はこの第1楽章だけでもいいと考えます。
荒涼とした第1楽章の余韻に浸る間も無く、第2楽章は「ドレミファソッソ♪ ドレミファソッソ♪♪」で始まります。まさにマーラー的な楽想で死の舞踏そのものと言えましょう。
第4楽章はあまりにネチネチしているので、好みではありません。
兵庫県立芸術文化センター
1月14日は兵庫県立芸術文化センターで、佐渡裕指揮兵庫県立芸術文化センター管弦楽団のマーラー9を聴きました。
マーラー9はこれまで、高関健指揮東京シティフィル(2022年3月29日)、ブロムシュテット指揮N響(2022年10月15,16日)を聴いています。
佐渡さんの指揮はかなりテンポを落としたねっとりしたものでした。
佐渡さんのプレトークで来シーズンの演目についてフライングの発表があり、2025年1月の第156回定期演奏会でマーラー8をやるそうです。3日連続!
・2025年1月17日(金)
・2025年1月18日(土)
・2025年1月19日(日)
600人程度の規模を計画しており、佐渡さん自身も初めて振るとのこと。実に意欲的なプログラムであり、日本中のマーラー愛好家が集結するでしょう。
最後に、特筆すべき録音を紹介します。
ワルター指揮ウィーンフィル
(1938年・世界初録音)
初演者ワルターによる、マーラー録音史の頂点に燦然と輝く永遠の名盤です。この前日には無観客でマーラー5のアダージェットが収録されました。
アンシュルス前後の不穏な時局で、会場のウィーン楽友協会には突撃隊やオーストリア・ナチス党員が詰めかけ威圧、あまりの緊張のためか、冒頭3小節目のホルンが遅れています。コンマスのロゼー(マーラー妹婿)を筆頭に、マーラーを知る団員がまだ在籍していたと思われます。
日本でも、1943年という困難な時期に発売され、全国のレコード店にマーラーの横顔ポスターが貼られました。54円(15万円)の高額でしたが、全てが破滅に向かいつつあった時局故、もう最後になるのではとファンの予約が殺到したと言われています。
ワルター指揮コロンビア交響楽団(1961年)
極めて鮮明なステレオ録音で、私の最も大切な音源です。リハーサルの様子も収録されました。ちなみにワルターは第2楽章の9小節目で指揮台を踏んで足音を鳴らす癖がありました。1938年、1961年の本録音及びリハーサル音源でも確認できます。
シェルヘン指揮ウィーン交響楽団(1950年)
現代音楽の推進者として知られるシェルヘンはマーラー7世界初演にも立ち会いました。ウィーン芸術週間のライブ録音は超高速演奏で、全く別の作品のようです。マーラーが本当の現代音楽であった時代を想起させます。音が悪くマニア向けですが、マーラー愛好家にこそ聴いてほしい録音です。
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