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マーラー第8交響曲 世界初演をたたえる(1910年9月12日)

マーラー第8交響曲 世界初演

時間旅行が許されれば、私を含めた世界中のマーレリアン(マーラー愛好家)が体験したいマーラーの第8交響曲の世界初演について書いていきます。

世界初演は音楽博覧会の目玉として、1910年9月12日にミュンヘンの新祝祭音楽堂(現ドイツ博物館交通センター)で行われました。

指揮:グスタフ・マーラー
演奏:ミュンヘン・フィル(170人)
合唱:ウィーン楽友協会合唱団(250人)、リーデル協会合唱団(250人)
児童合唱:ミュンヘン中央歌唱学校女子(300人) 男子(50人)
独唱者:8人 オルガン奏者:1人

合計1030人

マーラーの作品は、後期のものになるにつれどんどん深刻に、かつ現代音楽チックになっていくのですが、第8交響曲のみは祝典的な大オラトリオのようでありどこか仲間外れの感があります。マーラー自身は、これが自分の最高傑作で「大宇宙が響く様子、惑星の運行」を表したものだと考えていました。「千人の交響曲」という通称がついていますが、1000人で演奏するのはかなり稀です。私が聴いた2016年のヤルヴィ指揮のN響は、430人、2019年の水星交響楽団も500人程度だったでしょうか? 2023年12月のN響がどれくらいの規模となるか、大変楽しみです。

世界最高の指揮者による、自作交響曲の世界初演ということで大きく宣伝され、ミュンヘンの町中にポスターが掲示されました。12日の世界初演と翌13日の再演ともに3000枚のチケットが完売したそうです。

9月12日は開場が19時、開演が19時30分の予定でした。一部の興奮したマーレリアン達は18時過ぎには会場に到着しており、ゲネプロを見ていたそうです。若き日のストコフスキーもこの中の1人で、不審者と間違われて退去させられる所を、オケの知人に声をかけてもらいことなきを得ました。

19時45分 ついにマーラーが登場します。小柄なマーラーが人をかき分けながら登壇すると3000人の観客は総立ちになり、会場は静寂に包まれました。マーラーがおじぎをすると同時にものすごい拍手が巻き起こります。観客が着席し、マーラーが手を上げると850人の合唱団が起立します。手を振り下ろすとオルガンが鳴り響き演奏が始まりました。85分後、演奏終了とともに3000人の観客が熱狂し大爆発、児童合唱の子供達はマーラーを取り囲み、祝福しました。

観客の興奮ぶりは相当なもので、拍手が30分も続いたと記録されています。感動し号泣するトーマス・マンが献辞入りの自著を進呈するなど大変な騒ぎだったようです。マーラーの疲労は相当なものであり、演奏終了後はかなりやつれて見えたとの証言があります。このわずか8ヶ月後に現代音楽の扉に手をかけたままマーラーは死亡します。

この時の演奏は録音されていません。いったいどのような演奏であったのか、私たちが知ることは不可能です。ソプラノの独唱者は暗譜であったこと、独唱はどれも素晴らしいものだったとの証言があります。85分間の演奏と記録されていますが、これが本当であればスローテンポな演奏であったことになります。世界初演を聴いていた中で、唯一この曲の録音を残したのはストコフスキーですが、彼の1950年の録音はかなり早い演奏です。演奏時間のみで論じるのは軽薄ですが、やはりマーラー自身の演奏がどのようなものであったのか、タイムマシンでもない限り闇の中なのでしょうか(音楽ブログの記事で、世界初演を録音したレコードが現存しており近々CDで発売されるというものがありました。大いに驚いたのですが、それはエイプリルフールの虚報でした)。

なお、バスのリヒャルト・マイヤーの歌唱はワインガルトナー指揮の第九でわずかに聴くことができます。またサマリアの女を歌ったメッツガー=ラッターマンは1943年にアウシュヴィッツで死亡しました。本初演を聴いた最後の存命者はアンナ・マーラー(1988年死亡)と考えるのが妥当ですが、児童合唱が350人もいたので1990年代、ひょっとしたら21世紀にも参加者が残っていたのでは、とも考えます。

記念すべき9月12日の観客には、以下の著名人が含まれていました。

アルマ・マーラーおよびアンナ・マーラー、トーマス・マン、ヘンリー・フォード、フロイト、グロピウス、ラフマニノフ、ドビュッシー、サン=サーンス、R・シュトラウス、レーガー、シェーンベルク、エルガー、ボーンウィリアムズ、フランツ・シュミット、コルンゴルト、プリングスハイム、ワルター、クレンペラー、メンゲルベルク、ワインガルトナー、ストコフスキー、シューリヒト、F.C.アドラー、ハンス・スワロフスキー(児童合唱団)、ウェーベルン、ジークフリート・ワーグナー、クレマンソー、ホーフマンスタール、ツヴァイク、マックス・ラインハルト、カゼッラ、ベルギー国王、バイエルン皇太子、ミュンヘン市長、カンディンスキー(議論あり)

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