MENU
アーカイブ

IWC インヂュニア 500,000A/m Ref.3508をたたえる

IWCインヂュニア500,000A/m Ref.3508の詳細2

おすすめ度◎
お気に入り度◎◎

良い点
・歴史的タイムピースを手にする満足感
・無限の耐磁性

悪い点
・社外メンテナンスで無耐磁時計になっている可能性あり
・スイス送りでのメンテナンスがないと不安
・ショックアブソーバー、インナーケースが無い
・ブレスレット全交換のリスク有

歴史的タイムピースであるインヂュニア500.000A/m Ref.3508は1989年から1992年までのごく短期間に極めて限られた本数(1600本程度)が販売されました。

インヂュニアSL(Ref.3506)とルクルトムーブを積んだクロノメーター(Ref.3521)をつなぐモデルにあたります。歴代のインヂュニアにはある耐磁インナーケースが廃され、ムーブメント自体に耐磁素材を用いることで磁気から解放され世界最強の耐磁時計となりました。このムーブメントを搭載しているのはオーシャン2000の機雷処理ダイバー用モデル(BUND Amag)およびコンパスウォッチの3モデルしかありません。

著名な冶金・金属素材の研究者がこのインヂュニアの開発に携わり、89年にはCERNの核磁気共鳴装置に投入されテストを受けました。この際370万A/mまで耐えたとされますが、当時それ以上の磁界を発生させる方法がなかったため実際には無敵であると考えられます。MRIや原子炉に放り込んでも動き続けることでしょう。34mmケースにジェンタデザイン、12気圧防水に無限の耐磁性に加えて希少性と死角なしで最強の実用時計です。

インヂュニアファンとしては避けては通れないRefですが、若干繊細な印象を受けます。デザインはジェンタデザインそのものですが、ケースやブレスレットは年代相応の仕上げで、近年のインヂュニアを見慣れるとやや物足りないです。

オリジナルのブレスレット(ネジ止め)はヨレてしまっているものが多く、コンプリートサービスで新型ブレスへの交換を求められることが多いです。新型はマーク12のような観音開きのバックルを持つブレスで、駒の着脱はピンを叩いて押し出します。

これは同じケース、ブレスを持つインヂュニアSL Ref.3506(スキニー)、クロノメーターRef.3521(ルクルトインヂュニア)にも言えることです。

これらのインヂュニアは、粗雑に扱うとリューズのねじ込みがダメージを受けることがありますので、ご注意ください(私が持ってたのもリューズが壊れてました)。

Ref,3508は、Ref.3521と異なり、ラバーのショックアブソーバーと軟鉄製インナーケースがありません。この点やや物足りないようにも思えます。

社外でのメンテナンスによってニオブ・ジルコニウム合金製ヒゲゼンマイ等の部品を交換されてしまうと、耐磁性が失われる危険性があります。このため、メンテナンス履歴がしっかりしたもの、さらにスイス本社でのメンテナンスを行なったものが安心でしょう(GSTアラームなど、古いインターは徐々にスイス修理がデフォルトになりつつあるようです。本モデルについても、将来的にはメンテナンスに相応の手間がかかることを覚悟すべきです)。そもそも、すでに社外での交換を行なってしまった場合、スイス本社でも部品単位でのスクリーニングを行っているとは考えづらく、こうなるとヒゲゼンマイ交換を指定してオーダーをしないと懸念は払拭できないかもしれません。またわずか3年間に生産された特殊合金製部品(歩留まりが悪く作るほど赤字だったと言われます)のストックも多いとは考えづらく、時計としての機能は維持可能ではあるものの(汎用ムーブをベースにしているため)、「超耐磁製」という当初の性能ををどこまで保って次世代に受け継ぐことができるか、非常に難しい時計だと思います。前述のブレスレットの件もあり、個人的には「使わずに大切に鑑賞し、確実に次の世代の愛好家に受け継ぐ」のが正しい使い方だと感じます。

ケース側面の刻印「500,000A/m」には、白文字盤は赤、黒文字盤は黒のインクが入るようですが、個体で墨入れ有無が混在しており、どういう状況かわからなくなってます(記憶が曖昧ですみません。SS製が黒、コンビが赤の間違いかもしれません。赤インク入りお持ちの方いたら、ぜひ教えてください)。

欠点も多いですが、未来の電脳世界を夢見てジェンタとIWCのエンジニアが作り上げた、時計史に残る傑作です。実際には、人類は月に行かなくなり「バウハウスが席巻し皆が透明チューブや空飛ぶ車で移動する2000年代」は訪れなかったのですが…

基本的にIWC本社でのメンテナンスは永久的に可能ですので(一部の例外もあります。いつかこれについても書きたいと思います)、安心してコレクションに加えていただけると思います。

コメント

コメントする

目次