2023年12月19日 19:00開演
東京エレクトンホール宮城
演奏:仙台フィルハーモニー管弦楽団×オーケストラ・アンサンブル金沢
指揮:山田和樹
市民のためのファンファーレ(コープランド)
交響的「石川」(外山雄三)
アルルの女(ビゼー)
アルプス交響曲(R.シュトラウス)
アンコール「管弦楽のラプソディ」(外山雄三)
コンサートの概要・指揮者について
豪華!!!19時から21時半まで(20分休憩)の内容の濃いコンサートで、大満足でした。
さて、今回のコンサート名はとっても長いです。
その名も「仙台フィル50周年記念特別演奏会 仙台フィル×オーケストラ・アンサンブル金沢 with 山田和樹 フレンドシップコンサート」。思い入れの長さが名前の長さに比例しているのでしょうか。
注目したいのは2つのプロオーケストラが合同で演奏するという所です。リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」は奏者がたくさん必要な曲で合同演奏会という形式となりました。また副題に「山々を超える熱い絆」とあるように、このコンサートを開くにあたっては、オーケストラが物理的にも曲的にも山を越え、そして運営も山を越えたおかげで叶ったコンサートと言えますね。良い機会をありがとうございます。
しかしお恥ずかしながら、私はこのコンサートについては「アルプス交響曲は滅多に聴けない」というだけで足を運んだものして、指揮をされた山田先生という指揮者について全くの無知でした。
山田先生がすごい人(安易な表現ですが)だと知ったのは、開演前の特設ステージ、15分間のトークショーでのことでした。あまりのコミカルな語り口調に、始めはどこかのクラシックの有識者かと勘違いしたほどで、まさかこの後指揮なさるとは(失礼)。それくらい聴衆に歩み寄ってくださる良い意味で距離の近い方でした。お話はコンサート名になぞらえて「OEK(Orchestra Ensemble Kanazawa)と仙フィルや岩城先生、外山先生との絆を感じてもらえたら嬉しい」ということから、先生の知る岩城先生と外山先生のエピソード紹介まで、15分では物足りないくらいとても楽しいお話でした。この軽やかなトークと、この後披露される白熱した指揮の姿を見て私はすっかり魅了されました。この指揮者について行きたい、一緒に演奏したいと自然に思えるお人柄だと思いました。
お話に登場したOEK創設者兼指揮者の岩城先生と外山雄三先生は知っていました。
岩城先生のことは著書の「指揮のおけいこ」というエッセイ本で知っていました。”世界を舞台に活躍している指揮者”だなんて我々一般人からはほど遠い存在でありますが、エッセイの中では気持ち良いほどあっけらかんと等身大で語られていて、不思議と親近感が持てます。そんな彼の演奏には自然と興味が湧くもので、生で聞けなかったのは残念なことだと思っていましたが、今回山田先生を拝見して、その立ち居振る舞いや指揮はまるで私のイメージしていた岩城先生を具現化したようでして、彼を通して岩城先生の雰囲気が感じられたように思います。
外山先生のことは、アンコールで演奏された「管弦楽のラプソディ」で知っていました。私は吹奏楽の出でして、この曲は吹奏楽コンクールでも時折演奏されているのです。交響的「石川」を聴いたときに何か馴染みがあると思ったのは、日本的な音の使い方が日本人として馴染みがあるのに加えて、学生時代に触れてきた日本人作曲家の現代音楽を懐かしく感じられたこともあると思います。
アンコール前に山田先生が「二人が亡き今、新しい時代を作らなくてはいけない」という前向きなお話と、ステージと客席を1つにしようとする言葉に感銘を受けました。この彼の描くクラシック音楽のあり方はきっと若者にも受け入れられると思います。今回の客層は若い人も多く、地元の音楽専攻の学生も多く来ていて、ステージの最前列には高校生が並んでいるという珍しい光景がありました(おかげで山田先生がトークで女子高生たちに岩城先生を知っている?と聞いたら目を逸らされるという面白場面も生まれました)。
市民のためのファンファーレ(ビゼー)
打楽器と金管の立奏による、柔らかなファンファーレでした。もう打楽器の人たちがすごく楽しそうで、タイミングもばっちりで聴いていて気持ちよかったです。金管ってあんなに柔らかい音がなるのかというほど、包まれるような暖かさと、ファンファーレ特有の期待の高まりに胸がいっぱいになって、私はもうここで泣きました。笑
交響的「石川」(外山雄三)
交響曲なら分かるのですが、交響的とは何でしょうね。吹奏楽の曲名でよく聞くので現代曲の形式の一つなのでしょうか。よく分からないのですが、第1組曲と第2組曲と分かれており、石川県の民謡が色んな形になって流れていきます。お祭りのようなワクワクと、北陸の豊かな自然が感じられる曲でした。演奏には音の波が美しく寄せては返すのが心地よく、新緑のようなすがすがしさもあり、都心のオーケストラももちろん素敵な演奏をされていて胸を打たれたことは数知れませんが、このオーケストラは自然の中のきれいな空気を吸ってきたんだろうと思いました。また演奏中、奏者同士で合わせようとするような体の動きを見て、きっと楽しいオーケストラなんだろうなあと微笑ましく思いました。
アルルの女(ビゼー)
冒頭から弦のトゥッティが本当に見事でした。あの弦のざらついた発音の心地良さって何と表現したら良いのでしょうか。雷で楽しくなっちゃうような、変なトキメキで胸がいっぱいになります。またフルートの楽器紹介でよく聴くあの旋律は、この曲のソロからやってきていたのですね。音の透明感がすごくてもはや水。あのフルートのおじ様すごいです。曲に合わせて、おそらく木製から金属製に持ち替えてたり?、後々アンコールの時には何故かフルートから竜笛の音を出していたり(どうやってるの?!)、私の知らないフルートを吹いていて大混乱です笑。オーケストラにサックスがいるというのも珍しかったですよね。思わずどこから音がしたのか探しました。
アルプス交響曲(リヒャルト・シュトラウス)
さて今回のメイン曲、アルプス交響曲です。レアな楽器もたくさんあり、3階席でしたが返ってステージを一望できて楽しめました。ハープ2台、オルガン、チェレスタ、サンダーシート(金属?ハンマーで打ち付ける奏法でしたので、どちらというと村の緊急事態を伝える鐘みたいな音でした)、ウインドマシーン、おそらくコントラファゴット。
冒頭の静かなところから、出だしは若干よろけるところもありましたが、着々と登山を開始していきます。のびやかな気持ちの良い旋律はこのまま死ねたらいいなと思うほど清くて、これはただのオタク表現はなく本当に浄化されると思いました。きっとそう感じていたのは私だけでなく、隣に座っていたギャルも前のめりになってずびずび鼻をすすっていました(ちょっと音を出すのはやめてほしいし、背中は席に付けて鑑賞してほしい・・・笑)。
ステージ裏からのホルンの角笛。見事でした。あのテンポ感はどうやったらできるのでしょう。ホルンはアルプスの主役と言っても良いのではないでしょうか。終始かっこよく、美味しい旋律を奏でていたように思います。オーボエ吹きとして西沢先生の音に極力耳を傾けていたのですが、それでもやっぱりホルン。あとパーカッション。アルプス交響曲はキャッチ―な旋律があるというよりかは、のびやかで長いフレーズという印象があるため、個人的にアルプスの旋律がパッと思い浮かびません(覚えが悪いのだと思います)。でも感覚的な印象は強くて、高い空の下でうーんと背伸びをしたような心地よさが長期に続きます。
今回のオーケストラの素敵なところは健全な一体感だと思います。そしてそれがよく現れていた場所は、ハーモニーです。本当に良くて、管の見事な音の重なりには目を見張りました。あれを聴けば多幸感しかありません。
木管勢による鳥のさえずりはセンスの良さが輝きましたよね。E♭クラのハイトーンタンギング。クラリネットの唐突な勢いのある鳴き声!まるで自然の中を少しのスリルを感じつつ歩いているかのようで最高でした。オーボエ、フラッターでしたね!プロのオーボエのフラッター(吹きながら巻き舌、もしくは喉を震わせて細かなタンギングをする奏法)を初めて聴きました。あんな感じなのですね、私はできません、すごいです。
西沢先生のオーボエは冒頭から進むにつれてますます響きを増していきました。ビブラートを強くかけて歌い上げるのではなく素直な吹き方だなと感じました。全体的に無理がなく、力みもないのでよく響くといったイメージです。高音も高らかに伸ばすというよりは自然な音という印象で、その響きを聴いて私の理想とする高音像が少し変わりました。
オーボエの音色は奏者によって千差万別で、どこまで行っても「この音が良い音!」とは言い切れなかったりします(音が開いてる?と思ったとしても良い音だったりするので、安易に上手い下手の判断がつけられません)。もちろん音の方向を揃えるなど基礎は固めた上での話ですが、最終的に音色は好みによるので、プロの音を参考しようにも誰の音が自分の好みであり得意な音なのかという見極めが必要です。そういうわけで、私も理想の音を模索中なのですが、私の高音は西沢先生の音とベクトルが似ているかもしれないと思いました。私は自分の高音にのびやかさが足りないと思っていたのですが、響かせすぎないまとまった音というのもアリなのかもしれません。要検討です。
マイナーな話はこれくらいにして、アルプス交響曲の後半について話を戻します。アルプスの下山は嵐に見舞われます。特殊楽器の見せ場です。どんがらがっしゃーん。嵐ってワクワクしちゃいます。他人事だからですけれども。
嵐を抜けたら、天から差し込む光のように、オルガンのソロが響きます。オーケストラを恍惚とした雰囲気に導く、これってオルガンにしか出来ませんよね。場面転換に強い楽器のトップオブトップではないでしょうか。山田先生の指揮も白熱してきて、弦の奏者とまるで手をつないでいるのでは?というくらいの距離感で大きく棒を振っていきます。指揮者が船頭となって、奏者がオールを持って大海を渡る様でした。某アニメ映画の「油屋一同、心をそろえ~」ではないですが、心がそろってステージが輝いて見えました。
最後、曲は無へ返っていきます。私は「ここで無に返っていくその存在に、心からの追悼ができる」と思いました。消えるのではなく元に戻るような、何もない状態というのは安定することで寂しくありません。その存在を讃えたい気持ちになりました。贅沢言えば、拍手・・・もう少し我慢してほしかった。浸りたい無音の時間でした。そして浸りすぎて拍手があまり鳴りませんでした。
アンコール:管弦楽のラプソディ(外山雄三)
アルプスと打って変わって、超楽しい馬鹿騒ぎ。曲中拍子木の後に「よ~っ、はッ!」という掛け声があり、「よ~っ」というパートが観客に割り振られたのですが、さすが音楽関係者が多いからか皆さんお上手。笑
曲のはじまりは管打楽器奏者総手でクラベスを叩くところから始まります。もう楽しい。続いて和太鼓。ああ楽しい。和太鼓の元気なお囃子ってもうたまらんのです。楽しそうな打楽器奏者を見るのもたまらんのです。もはや指揮台から降りて踊って跳ねる指揮者。お祭り騒ぎが加速します。
ディズニーランドより楽しい日でした。ブラボー!!
演奏後しばらくステージを見ていますと、演奏した方たちが戻ってきて仲良く写真を撮ってらして、ステージ上も楽しかったのではないかなと思い嬉しくなりました。
こんなステージに出会えるのは、アルプス交響曲の演奏回数よりも少ないでしょう。あまりにも幸せな時間だったので、彼と行きたかったなあと思いながら帰りました。金沢に行く機会があったら、ぜひOEKの演奏会にも行きたいと思います。
コメント