マーラー:交響曲第3番 ニ短調
日本フィルハーモニー交響楽団
指揮:カーチュン・ウォン
メゾソプラノ:山下牧子
女声合唱:harmonia ensemble
児童合唱:東京少年少女合唱隊
10月13,14日はサントリーホールでマーラー3を聴きました。首席指揮者に就任したカーチュン・ウォンはマーラー愛好家であり、日本フィルでこれまでに振った4、5番(4番の前プロがかの伊福部 リトミカ・オスティナータでした)の名演はマーラー愛好家の記憶に新しいでしょう。
4、5番がやや個性的なアプローチだったためどのような演奏になるか心配でしたが、極めて見事な指揮でした。静と動の対比がはっきりとした精緻な演奏で、顕微鏡で覗いたように隅々まで聴き取れるマーラー3でした。第1楽章のカオスな光景、第6楽章(意外に早いテンポでした)の整理は見事なもので各パートの様子が手に取るようにわかります。退屈してしまいがちな第2、3楽章も飽きさせず、3楽章のポストホルンのソロもバッチリ決まりました。
ソリスト及び合唱も好演でした。山下さんのクールな歌唱、児童合唱による第5楽章の「びむ ぱむ」などは大変良いものであり、特に女声合唱は清らかでまさに天上の音楽のようでした。
自分のマーラーをどのようにしてオケに伝えるのか、カーチュンは非常にユニークなバトンで分かりやすく表現していました。
またこれまで同様に全て暗譜で振っていました。
日本フィルは本当に良い指揮者を首席指揮者に迎えたと思います。これからのマーラー演奏が本当に楽しみです。
フライング拍手などもほぼ無く(13日の終演後に少しだけ出たがすぐ止んだ)、観客も極めて高い集中力を持って歴史的名演に臨んでいました。当然終演後は参賀があり、拍手が止む事はありませんでした。
ここまで見事なマーラー3はそう聴けるものではありません。マーラー3の実演は6回目ですが、今回の2公演、特に14日の公演は最上の聴覚体験でした。
偉大なマーラー作品の中でも、3番は特別な作品です。現代音楽の扉に手をかけたマーラーですが、3番は明らかに、インスピレーションの源泉であるメルヘンチックな印象を帯びています。
第6楽章は「愛が私に語ること」なる主題(後にマーラー本人によって削除)をもとに解説されることが多いのですが、近年の研究では、イクシオンの車輪からの解放、つまり絶えることのない苦痛からの解放、すなわち「死」を表しているそうです。第5楽章で天使によって罪を赦されたペテロは、安らかに死を迎えるのです。
そして、迎え入れられた天国は大変グロテスクなもので、酒池肉林の乱痴気騒ぎが繰り広げられているのでした。この情景を描いた第7楽章は、マーラー本人によって削除され、第4交響曲の第4楽章となりました。
入り口にはマーラーの孫マリーナ・マーラー氏のメッセージも掲示されており、大変感動的です。とりわけ「また世界で最初にマーラーの音楽を聴き、愛し、理解した国のひとつである日本」について言及されている事は重要です。日本国内におけるマーラー演奏史は特別なものがあります。
また、カーチュン・ウォンはマリーナ・マーラー氏と交流があるので、我々も「マーラーに会った人(次女アンナ)に会った人(孫のマリーナ氏)に会った人(カーチュン)」との接点が生まれ、マーラー本人との緩やかな同時代性を獲得することになるのです。
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