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【美術鑑賞感想】能島和明日本画展 東北の地よ(カメイ美術館)

2024年5月29日(水)、真っ昼間。

いつもなら閑散としているカメイ美術館に、たくさんの人が来ていました。何事かと思えば今日から、能島和明さんという方の作品展示が始まったようで、なんとご本人がいらっしゃる。おかげで解説を聞いたり、質問をしたり、新聞記者にインタビューされたり(?)しました。

私は絵を見ることが好きですが、大学で概論の講義を受けたくらいで、美術を学んだことはありません。展示会の名前に“日本画”となければ、日本画だとは思わなかったでしょう。それでも絵から放たれる覇気のようなものが心を打ち、絵をみて泣くほど感動するという夢がかないました。

目次

作者について

フロントの方に教えてもらって作者の能島さんを知りました。私よりも小さく、目がキラキラしているおじいさんでした。奥様でしょうか、お着物を召されて絵を解説されるきれいな方がいらして、はじめはそちらの方が描いたのかと思ったほど、能島さんはひっそりと佇まれておりました。

パンフレットによりますと、現代日本画を代表する作家の一人で、宮城県栗原市がご出身。美術展の顧問や美術協会の名誉会員でいらっしゃるとのことで、疎い私もきっとすごい人なのだということが分かります。

ゆり

握手をせがんでおいたほうが良かったかしら・・・

作品について

展示されていた作品を拝見するに、お花、仏像、舞踊、日本の神などが主なテーマでした。日本画と言われなかったら日本画と分からなかったと先述しましたが、この絵たちをご覧ください。日本画と言われてイメージするものよりも、色彩豊かで、陰影もしっかりあり、臨場感で訴えかけてくるような印象はありませんか?作家紹介で「素朴で温かく、しかし奥底に東北人の強い意志と情念を感じさせる独特の作風」とあり、まさしくその通りだと思いました。

入館してすぐあるのはこちらの「月待ちのかもしか」。

能島和明日本画展東北の地よ、より「月待ちのかもしか」

なんてロマンチックな題名でしょう。そして能島さんの作品はいずれもサイズの大きさに驚きます。
巨木の幻想的な描き方とは対照に、毛並みまでしっかりと描きこまれたかもしかが、ひっそりと月を待ちます。本当に美しくて、能島さんが人生をかけて見てきた「美しい」が詰まった作品だと思いました。見ていると胸が一杯になります。

その後はお花や植物の食材が並びます。見ていて能島さんの特徴として、背景を丁寧に描くところが挙げられるのではないかと思いました。黄色や水色や白色や、水面が揺蕩っているような情景を前に、日本画らしい細やかに折れ伸びていく花々が飾られています。

特に黒い牡丹が印象的でした。実際には黒ではなく、深い紫というか赤というか、花の色をしています。そこから何かが出ています。私が覇気だと思ったこれは、ご本人いわく情念だそうです。花からも像からも、能島さんの作品からは立体的にこの情念が届きます。その力強さが涙を誘うのです。

心にせまる作品

特にこの情念の力を感じたのは、「鐘巻」と、東北の震災を追悼して描かれた「東北の地よ」シリーズです。

「鐘巻」とは能の名前で、黒川能(山形県鶴岡市)のワンシーンと思われます。物語は鬼神になってしまった娘を、修験者が祈祷によって救い出すもので、なるほど服装は女性でありながら手足は男性的だと思いました。般若のお面をかぶり、歪んだ金づちを握りしめ、まるで表情が分からないけれどその苦しさや人の浅ましいところが滲んでおり、迫力に気圧されました。

東北の地よⅤ(左)、鐘巻(右)
ゆり

描いてる時苦しかったんじゃないかしら・・・

そして「東北の地よ」の作品はⅠ~Ⅴが並んでいました。

左から「東北の地よⅠ、Ⅱ、Ⅲ」

まずⅠ。まるで世紀末です。どうしようもなくて、絵の前で立ち尽くしてしまいました。
仏様のお顔を拝見すると紅を差してはいますが、うつろな表情に生きているのかよく分かりません。右手に死んだヒガンバナ、左手には手折られたヒガンバナが握られています。足元の生き残ったように見える百合も、消えていった命に見えてきて、花々=被災者の意味を持っているのではないかと思いました。また、良い例えかは分かりませんが、地獄楽(賀来ゆうじ作の漫画)のカオスな世界感を思い出す、じんわりとした感動というよりも圧力を感じました。
そしてここでも背景が雄弁です。見えるものではなく、見えない情念でその世界を明るみにしています。これについては言葉にできないので、一回とにかく見て頂きたいのですが、あまりの強さに圧倒されることでしょう。

Ⅱになると復興の兆しが見えていきます。下に生えていた花は上の方にまで広がり、仏様も落ち着きのある様子です。空も白んできました。凪のようです。

そして衝撃のⅢ。まるでギリシャ像の、サモトラケのニケのように体が欠けています。祈りを込めて寄り添うように描かれた作品でありますが、その寄り添い方が良い意味で生生しく、本質的です。痛々しさと華やかさが同時に描かれていることで、希望と絶望をないまぜにした内面が匠に表されています。この欠けた像は歩き出そうとした仏なのでしょうか、それともまた別の像なのでしょうか。いずれの解釈にしても、切なさを強く残す作品です。

Ⅳではこどもが登場し(サムネイル画像)、Ⅴは打って変わって能の一場面のような絵となり(鐘巻の隣の画像)、随分ときらびやかになっています。お面をかぶっているという点で内面は見えませんが、表面は美しく調和している様子です。

これらシリーズで眺めると、人の心の復興を時系列で追うようで、衝撃的な作品たちでした。

その他亡くなった北海道の女性の絵もあり、展示会を通して生死の様や情念や祈りなど、日本らしい信仰心を感じました。

ゆり

素晴らしい経験でした。

展示期間:2024年5月29日(水)~7月28日(日) 11:00~16:00(入館は15:30まで)
休館日:月曜日
入館料:300円

○鑑賞イベント
ギャラリートークが6月30日(日)14:00~
作家在館日は7月28日(日)

(画像出典:カメイ美術館パンフレット)

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