この本を初めて見かけたのは大学生の頃。”月の満ち欠け”だなんてロマンチックな名前、と思ったら岩波文庫。これはもしかしなくても月についての理系の本だわ、と思い(勘違い)手を付けませんでした。
次に見かけたのは社会人1年目。本屋で見かけて立ち読み。私はネタバレを積極的にしたいタイプなので本の中盤を開いてみると、なんだ小説じゃん。三角との麗しき不倫シーン。あの雨宿りのシーンをここで堪能し、本を閉じます。
そして先日、やっと購入しました。どこかずっと気になっていて、これだけ見かけて毎回気になるのならきっと良い本なのだろうと思ったら、やっぱり夢中になれる良い本でした。読了感は「マチネの終わりに」と似ているかな。
作中しょっちゅう時代が変わりますし、主人公の名前も転生のたびに変わります。ミステリー小説のようなプログラム的な文体とは逆の、感覚型ともいえる作品と思います。書評で合う合わないというのはここに依る印象です。
物語の構成は一本王道の恋愛ものの筋が通っていて、その周りを複数のテーマがめぐっているような感じでした。この王道転生恋愛ものは、やはり再開シーンに胸が熱くなりますね。何十年も、死後でさえも忘れられない相手がいるというのは尊いことだなと思いました。では果たして自分もそれをやりたいかと聞かれると、結構しんどそうというのが正直な感想ですが、こういう恋愛ものを読むとどうしても自分の大事な人のことを思ってしまい、感傷に浸ってしまいます。
瑠璃も玻璃も照らせば光る。初めて聞いたことわざでした。この名前がとってもきれいすぎて、文面に瑠璃という言葉が出てくるだけで、きれいな文章だ~と思ったのは三角マジックのしわざでしょうね。いやはや三角君から見た瑠璃さん美しすぎませんか。滲む色気に思わず憧れます。そんな水も滴る良い女が、水も滴る女児として登場して再開するわけですが、見た目だけじゃなくてもっと深いところで愛している三角くん。徐々に瑠璃さんの特急呪物が露わになっていくわけですが、それに三角くんが呼応できるというのが相思相愛です。瑠璃さん、きっと正木との過去を言わないだろうけれど、実際言ってしまえば三角くんはオールOKで受け止めてくれそう・・・。早くるりちゃん大きくなって愛の巣を作ってほしい。
周囲を巡るテーマとして、題名の月の満ち欠けにもあるように、生き死にについて語られています。作中自分が大木のように種子を残す生き方をするか、月のように生き死にをするかどちらが良いかという話がありましたね。私はすっかり記憶を残したままでの輪廻転生はあまりしたくありません。でも大事な存在とは巡り合えるとロマンチックで素敵だなと思います。
自殺についての感覚は、私も瑠璃と同じです。誰かが自死を選んだとしても、それは生を全うしたのだなと思います。それに対して正木の考え方というのは興味深かったです。生への冒涜だと憤慨するシーンは私にはなかった発想でした。
また、理解できないことを受け入れる難しさというのも描かれていましたね。登場人物たちにとって、瑠璃の輪廻転生を受け入れることが物語上の試練の役割を果たしています。それを失敗するたび瑠璃は死に、三角でさえ受け入れるまでに数十年の歳月を必要としました。頭で理解できない状態から、“一理ある”と仮定して、さらに自分の大切な存在が生まれ変わっているということがあって、やっと物事が受け入れられるというこの長い過程。思わずやきもきしてしまうところですが、これは身近に溢れているように思います。
ただここでも正木です。彼の場合はすぐに気づいた一方で、過去世での怒りに囚われてしまって失敗するというところがまた新鮮。察しが良ければ良いというわけではない。すべてが受け入れられるとは限らない。一番いやな役だけれど、一番人間らしさ全開でよい働きをしていると思います。
そしてこの作品、映画化されているわけですが、正木瑠璃を演じたのが有村架純さんと知って、まさしく!と思いました。あとは仲間由紀恵さんとか良いんじゃないかな。黒髪がしっとり首に張り付いてほしいのです。
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